その59 春の徳之島 生きもの観察紀行−3

Ikimono Dayori sono59

春の徳之島 生きもの観察紀行 Page3

5月17日

今日の昼間は、北部の三方通岳の南山麓を通る林道や周辺の農地でイボイモリやトカゲの調査です。

車の窓を全開にして、新鮮な空気を吸い込みながら車を走らせます。いたるところでアカショウビンが「キョロロロロロロ」と尻下がりの澄んだ声で鳴き、時に道路を横断して飛んで行きます。

林道の始点付近でハブが車に轢かれているのを見つけて写真撮影。

路傍の草木が生い茂り、車一台がやっと通れる林道に入ってからは、ゆっくり車を走らせて生きものを捜します。


アオカナヘビ

ススキやカヤ等の高茎草本が生い茂る路傍には、アオカナヘビTakydromus smaragdinus)が多く生息しています。

アオカナヘビは、南西諸島の宝島、奄美大島、喜界島、徳之島、沖縄島、久米島などに分布する日本固有種で、主に林縁や開けた高茎草地、サトウキビ畑、民家の生垣など、比較的広く生息しているのですが、体色が完全に保護色となっているため見つけにくい種です。

アオカナヘビ(Takydromus smaragdinus

アスファルトの路面には、バーバートカゲPlestiodon barbouri)や巨大なオオシマトカゲPlestiodon marginatus oshimensis)が日向ぼっこしていますが、なかなか近寄る事ができません。

やっとの事で、写真撮影しましたがこの通り。

遠くから撮影するとボケボケだし、近寄ると逃げ足が速く、尻尾しか写っていませんでした。でもとっても綺麗でしょ!


バーバートカゲ
バーバートカゲ
バーバートカゲ(Plestiodon barbouri

 

バーバートカゲは、奄美・沖縄諸島の奄美大島、加計呂麻島、与路島、請島、徳之島、沖縄島、渡嘉敷島、久米島、伊平屋島に分布する日本固有種で、自然性の高い山地の森林内やその林縁に生息しています。

分布の重なるオオシマトカゲやオキナワトカゲは、主に草地や粗林地、海岸林、農地等集落の周辺に生息し、棲み分けをしていますが、面積の小さい島では同所的に生息しています。ここ徳之島でも同じ場所で2種が観察できました。


松ぼっくりの食痕

アオカナヘビやバーナートカゲの写真撮影のために林道を歩いていると、アマミノクロウサギの糞や何かにかじられた松ぼっくり(球果)が転がっているのに気付きました。

このように、まるでエビフライのような食痕を残す生きものは、ムササビやリスの仲間が有名ですが、ここは徳之島です。アマミノクロウサギなのかケナガネズミなのか・・・夜間観察が楽しみです。

松ぼっくりの食痕(通称:エビフライ)

時計を見ると、12時を回っています。そろそろ真剣にイボイモリを捜すことにしましょう。まずは、林道脇にススキやソテツの葉が積み上げられている場所で探してみることにします。

手鍬を使って、ソテツの葉の束をひっくり返したときです。ソテツの束の中からネズミのような動物が飛び出してきました。その後を追うようにピンクの幼獣が5匹も・・・

成獣は逃げてしまいましたが、幼獣と巣の写真だけは撮っておくことにします。


ジャコウネズミの幼獣と巣
ジャコウネズミの幼獣と巣
ジャコウネズミの幼獣と巣

後日、撮影した写真をもとに友人の「ばいかだ」こと徳田君に同定をお願いしたところ、トガリネズミの仲間で、毛の生えてない幼獣大きさから、ジャコウネズミの可能性が一番高いとのことでした。

徳之島に生息しているトガリネズミ科は、ワタセジネズミ、オリイジネズミ、ジャコウネズミの3種だそうです。

場所を移動して、路傍のススキを刈り取って山際に堆積してある箇所を掘り返してみることにします。ここでも、イボイモリは見つかりませんでしたが、ヘリグロヒメトカゲAteuchosaurus pellopleurus)が多く姿を表しました。


ヘリグロヒメトカゲ
ヘリグロヒメトカゲ
ヘリグロヒメトカゲ(Ateuchosaurus pellopleurus

 

ヘリグロヒメトカゲは、沖縄諸島、奄美諸島、トカラ列島の大半の島々と竹島、硫黄島、黒島に分布する日本固有種で、 山地から集落周辺の日当たりの悪い湿った環境に生息しています。

昼間は落ち葉が厚く堆積している中や粗大ごみの下などでよく見かけますが、夜は、地上に姿を表し歩き回っているところを見かけます。

さて、イボイモリEchinotriton andersoni)はというと、山際の小さなバナナ畑でやっと1匹見つけることができました。

徳之島の個体群にしては、大型の個体です。

徳之島産のイボイモリは、沖縄北部の個体群よりずいぶん小さいため迫力には欠けるのですが、頭でっかちで肋骨の発達が著しいため平べったい印象を受けます。

イボイモリらしいイボイモリで、そのかっこよさはイボイモリ属No1です。

その後も別の場所で少数を観察して昼間の観察を終えました。

 

イボイモリの生息環境
イボイモリの生息環境
イボイモリの生息環境
徳之島産 イボイモリ
徳之島産 イボイモリ
徳之島産 イボイモリ(Echinotriton andersoni

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文と写真:佐久間 聡(さくま さとし) お便りの宛先はdelias@ss.iij4u.or.jpです。